後編【中国産羽毛の是非】中国の光と闇【中古羽毛混入問題】
中国の闇、中古羽毛の混入問題
前編では「中国の羽毛にも良いものがある」というプラス面の話をしてきましたが、後編ではマイナスの話を。
この映像は中国のとある工場で、女工の方々が使用済みダウンジャケットや羽毛布団を解体して、中の羽毛を取り出している様子を撮影したものです。
使い古した羽毛ですから、新品と比べるとダウンボールはボロボロで、ファイバーの山。お世辞にも良好な状態とは言えません。
ボロボロの中古羽毛
上質な新羽毛と比べると差は歴然
では何のために傷んだ中古羽毛を取り出しているのか?
それは新品の羽毛に中古羽毛を混ぜて量を多く見せかけるためです。
羽毛の取引は量り売りなので、仮に70kgの新羽毛に30kgの中古羽毛を混ぜて100kgの新羽毛として売れば、その差額分、羽毛業者は儲かります。わざわざ手作業で羽毛を取り出す手間を考慮してもです。
羽毛の相場が安い時に偽物を売ってもさほど利益は出ませんが、近年は羽毛原料の高騰が著しく、「相場が高くなればなるほど差額=利潤が大きくなる」ので、それに伴って美味い汁を吸おうとする偽装業者も増えるという理屈です。
とはいえ、流石に中古羽毛100%のものを新羽毛と偽るような馬鹿なことはしません。(そんなことをしたら一発でバレますから。)
取引相手にバレないように5%、10%、20%と少量だけ混入させるわけです。
案内して下さった方によると、日本にもかなりの中古羽毛が入り込んでいるとのこと。(特に価格の安い羽毛布団を中心に)
なにせ六安市だけでもこのような解体工場が150~200あるようですから、まあそういうことなんでしょう。
恐ろしい話ですわ、ほんまに。
また偽装といえば、今回の中古羽毛とは少し話が違いますが、ポーランドの羽毛にアジアの羽毛を混ぜて量を増やし、それをポーランド産と表示して販売するという産地偽装の問題もあります。
例えば「中国から一度ポーランドに羽毛を送って、その羽毛をポーランド産として日本に輸出するケース」、「ポーランドから一度中国や台湾に羽毛を運び、そこでアジアの羽毛を混ぜて増量してから日本に運ぶケース」が一般的なやり口です。
高いものを無理に安く買おうとすれば、どこかで必ず歪みが生じるということですね。
羽毛の再利用には大賛成
ただ皆様に誤解して頂きたくないのは、私どもは中古羽毛そのものを否定しているわけではないということ。
羽毛は大切な資源ですから、再利用そのものには私どもも大賛成です。アパレルではリサイクルダウン(中古羽毛)を謳ってダウンジャケットを販売しているブランドもありますし、ヨーロッパでも中古羽毛と表示された羽毛布団が売られています。実際に当店でも羽毛布団のリフォームを多数承っております。
問題は、中古羽毛や産地偽装で不当な利益を得ている業者が存在し、そういった業者のせいで鳥を飼育している農家(生産者)の方々や、その原料を最高の羽毛に精毛しようと企業努力を続けている真っ当な羽毛メーカーが大きな打撃を被っているということです。
肝心の対策は?
残念ながら明確な対策はなく、最終的には「できる限り信頼できるお店で購入して下さい」ということに尽きます。当たり前のことしか言えずにごめんなさい。
あとは当たり前ですが、「余りにも安い商品は避ける」ということも対策になります。特にポーランドやハンガリーと表示されているにも関わらず、飛び抜けて安い布団は避けましょう。羽毛を仕入れる時に「安くしておいてね。」と下手に値引き要求をすると、「うん、分かった!(値段を安くする分、違う羽毛を混ぜておくね)」というケースがありますので。
当店の場合、欧州産の羽毛は、中国や台湾を経由せず、直接日本に入ってくるものしか扱わないようにしています。
またできる限り、農場や羽毛原料メーカーを訪れ、その飼育環境や生産プロセスをこの目で確かめるようにもしています。現地の生きた情報を手に入れることで、少しでも違和感に気付けるようになりたいからです。
例えば「中国の黒竜江省で100日間も飼育された上質なグースダウンです。どうですか?」といった営業を掛けられたとします。何も知らなければ「へぇ。すごいね。」となるところですが、実際は100日なんて全然長くないし、誇れるような飼育期間じゃないわけですよ。
「ポーランド産の中でもホワイトコウダという特別なグースダウンなんです!」という説明に対しても、正しい知識さえあれば「いやいや、ポーランドのグースは全部ホワイトコウダ種だから。むしろホワイトコウダと表記されていないポーランド産グースって何なの?」とその説明がいかに滑稽で愚かしいかということに気付くことができます。
他だと、グースダウンと表示されているのに証明書の写真はダックだったりね。
まあ何せこの業界はすごいので、自分たちがまず騙されないようにしないといけない。今後もいっそう身を引き締めて、羽毛布団の販売に努めたいと思います。
(前編はこちら)